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子どもたちと保育者の深刻な音環境を改善する、音響テクノロジーの開発と標準化

【研究名】室内音環境

2017年11月02日

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保育現場を悩ませる騒音問題の解決を目指して

待機児童問題を解消すべく、保育園の増設や定員数増加が進められています。都市部では利便性などの理由により、駅近の商業施設や高架下、ビルテナントなどでの開設が増加。そのような施設では、限られた空間で効率的に保育を行う目的などから、年齢別に部屋を仕切らず、ワンルームを家具やカーテンなどの簡易なもので仕切っている場合が多くみられます。

しかしそういった施設では、子どもたちと保育者の「音環境」という新たな問題が噴出しています。0~5歳児まで、多い施設では100名以上がワンルームで過ごしている状況は、近くで使用中の掃除機の音が聞こえないほどの凄まじい騒音。劣悪な音環境は、子どもたちの言語発達や聴力発達への悪影響、睡眠不足による免疫力の低下などの危険性を孕んでいます。また、その環境で働く保育者への影響も見過ごせません。言葉を伝える際に大声を出すことで喉を痛める人や、難聴気味になる人もいるとのこと。この現状に対して、明治大学理工学部の上野佳奈子教授は、建築音響学の立場からアプローチしています。「吸音材」の開発支援・導入促進や、音環境に関する設計ガイドラインの検討により、理想的な音環境の実現を目指しています。

理想的な音環境を整える鍵は、「吸音材」と「設計ガイドライン」

上野教授の取り組みの1つめは、「吸音材」の開発支援と導入促進。吸音材とは音を吸収する素材で、騒音対策や残響の調節に使われます。保育施設に使用する吸音材としては、室内空気汚染の原因物質が発生したり、繊維飛散したりすることのない、安心安全の素材であることが求められます。このような条件を満たす吸音材料を用いて、現場実験として保育施設に設置したところ、騒音による不快感が減り、声の通りやすさや子どもの落ち着きの面でも効果が感じられたとの反応が保育者から多く寄せられました。

【現場実験】吸音材設置前

【現場実験】吸音材設置後

実際に騒音レベルも5dB程度減少したというデータが得られています。一般的な保育施設では騒音レベルは80~85dBとなる場面も多々あり、これは地下鉄や電車の車内と同程度の騒音。85dB以上の騒音は保育者の労働安全衛生法に抵触する可能性もあるため、既存の施設にもこのような吸音材の導入が望まれます。現在、保育室に後付けしやすい吸音材の開発が求められており、保育園や幼稚園にふさわしいデザインや色のバリエーションの展開も含めて、保育施設での試用実験を行っています。

安全性や設置の簡便さを考慮した吸音材

カバーには保育者と園児の協力で絵付けを行いました

そして2つめは、保育園・幼稚園向けの音環境に関する設計ガイドラインを制定する取り組みです。小中高の学校施設には定められている音環境に関するガイドラインが、意外にも保育施設は対象外となっており、音環境面に配慮した設計・材料選択が行われているケースは稀。低年齢ほど騒音や残響過多の影響を受けやすいにも関わらず、必要性が認識されていないのが現状です。上野教授はこの問題に対し、室内の静けさ、他の部屋からの遮音、適度な響きなどの音響性能について、建築の視点からアプローチ。学校施設とは異なる空間構成や保育環境の考え方など、保育施設の実態を踏まえたガイドラインの制定と普及に向けて、保育施設の音環境の調査や現場実験を行っています。遮音や残響に配慮されていない環境は子どもたちの日々の生活に影響を及ぼすだけでなく、感覚刺激に敏感な発達障害の子どもたちにとっても大きなストレスに。保育者の労働安全衛生の観点からも、これらの問題を改善し、保育園に関わるすべての人々がストレスなく過ごせる環境を実現していく必要があるでしょう。

理想的な音環境の実現を叶えるには、保育施設を運営する自治体や企業との連携が不可欠です。また、建築素材、吸音素材のメーカーとの共同開発によってより良い吸音材を開発し、実用化していくことが望まれます。もちろん保育の現場に限らず、子どもの集まる環境や公共の施設、音に悩まされる場所など、同様の課題はさまざまな場面に存在するでしょう。「吸音材」の商用展開や、CSR活動として音環境改善の取り組みなど、今後幅広い活用が期待されます。

上野 佳奈子Kanako Ueno
明治大学 理工学部建築学科 教授
建築環境工学、建築音響学、環境心理学
http://meiji-architecture.net/labo/kanako_ueno.php

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Seadasがこの研究を通して実現したいSDGsの目標

SDGsとは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略。全17カテゴリで定められた目標のうち、この研究によっても貢献が期待されています。
クリーク・アンド・リバー社は、持続可能な「未来の社会」のためにオープンイノベーションを加速させ、SDGsに寄与していきます。

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